越路荘は懐かしき昭和のおもてなしエッセンスを色濃く感じられる温泉宿。温泉、料理、接客モラル、清潔感どれもがレベル高く、甲冑や槍・火縄銃が展示される空間はちょっとした歴史資料館の趣き。露天風呂からは南魚沼市街を見下ろし眺望抜群。
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ウィンターシーズンもいよいよ終わりを迎える3月最終の土曜日、今シーズン最後の上越国際スキー場でのスノーボードを楽しんでいた。今年は3月に入っても寒かったのだが、ここ2週間ほどで季節は進み、雪質はかなりヘタレ気味。残念だけど春は駆け足でやってくる。
この日の宿は六日町温泉にある越路荘。上越国際からかなり近く、何よりも源泉かけ流しの温泉が楽しめるということで、以前からマークしていた宿だった。しかし、いつも一人利用のため料金は割高。週末では1泊17,000円ほどかかってしまう。
どうしたものかと思案していたところ、和室ではなく洋室利用ならば5千円も安いことを知り、即座に決断。予約を入れたのであった。
温泉宿に泊まる時、スキー場からの撤収は早い。14時30分過ぎには上越国際を発して、六日町に向かって国道17号を北上していた。周囲の山々には残雪が見られるが、国道には雪はない。空気はまだ肌寒いが、確実に季節は進んでいることを実感する。
六日町の市街地に入り、国道を左折して少し走ると、右手にそれらしい建物が見えてくる。割と市街地の中にあって結構大きい。それがこの宿の第一印象であった。駐車場は広いが、何故かこの時間でぎっしり満車状態。いつもこんなに混んでいるのだろうか?
駐車場の案内係に宿泊の旨を告げると、車は玄関前に停めてくれれば、後は係が駐車するとのこと。そりゃ楽だなと玄関前に車を回す時、ふと足湯が眼に入った。
車を降り建物に入る前に足湯を確認すると、「六日町温泉発祥の地」という石碑が建っている。なるほど越路荘は大湯元か…それなら温泉はかなり贅沢な使われ方をしているに違いない。さて六日町の湯はどんな感じだろうか。
あらためて玄関前で建物を見上げるが、白基調のハコはかなり大きい。でも新しい感じではなく、昭和の香りがする。印象としてはバブル前のS50年から60年頃までのイメージ。自分の少年時代に見た旅館のイメージとピッタリと一致する。(後で調べると、建物の建築はS52年。見事に一致!)
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建物の中に入ると、エントランスロビーにちょっとした驚きを覚える。空間というか、奥行がとても広いのである。それにしても人が多い。見るとレセプションパーティーの受付がある。どうやら農業関係者の親睦会があるようだ。なるほど、それで駐車場が満車だったわけだ。
フロントの対応はとてもよく、丁寧でハキハキとした印象。チェックインの後は、すぐ近くにある囲炉裏でお茶をいただくが、この接客対応もいい。しばらくすると、案内係がやってきて、部屋まで案内をしてもらう。
改めてロビーを見渡すが、エレベーター前には上杉軍の「毘」と「龍」の旗と直江兼続の甲冑(レプリカ)が飾られ、甲冑や火縄銃、そして御輿に大きな雛飾りに囲まれた奥のスペースには、たくさんのソファが並んでいる。
また途中のエレベーターホールにも多くのソファが置かれ、通路には刀槍と火縄銃、そして直江状のレプリカが飾られている。館内はちょっとした郷土歴史資料館の趣き。歴史好きの私としては、これはかなり嬉しい。
六日町は直江兼続生誕の地であり、戦国時代を彷彿とさせる甲冑や刀、そして火縄銃までもディスプレイされ、ちょっとした資料館のような雰囲気がとても印象的。それらに囲まれて多くのソファが並び、待ち合わせや談笑する姿が見られる。
館内施設の多くはロビーフロントのある1階に集中。売店、ラウンジ、スナック、ラーメン処、ウェルカムサービスが受けられる囲炉裏、さらに朝食会場を兼ねるコンベンションホールがある。また浴場の前には「じょんのび処」という湯上がり処があり、ちょっとした休憩に便利である。
40室未満の宿だが、施設はかなり充実。新しい建物ではないようだが、メンテナンスや清掃が行き届いているのだろう。汚れやゴミなどはなく、とても清潔な印象を受ける。
今回利用する部屋は、20㎡(6坪強)ほどのバス・トイレ付の洋室。ツインだけに充分なスペース。きれいに掃除が行き届き、清潔感がある。液晶テレビと小さな冷蔵庫もあり、まあまあな感じ。さらに夕食もこの部屋でいただけるらしい。
かつての添乗員部屋をビジネス用に改装したような感じだが、コストパフォーマンスを考えたら、これでもお釣りがくるくらいだ。
荷物を解き、早速、浴衣に着替えて浴場に向かう。浴場は4階にあり、時間による男女入替制。趣の異なる風呂を楽しめるのは嬉しい。どんな温泉かと期待を込めて、青い「あんさの湯」の暖簾をくぐる。脱衣所でハダカになりながら、温泉の利用状況を確認する。
温泉利用証をみると、素晴らしいことに源泉100%掛け流しで塩素消毒もない。泉質は塩化物泉のようで、源泉は集中管理された六日町混合泉。続いて温泉分析表をみると、泉質は単純温泉で、源泉は7号・12号・13号混合泉。異なる表示だが日付が違う。
おそらく、以前は宿の前から湧き出す源泉を使用していたが、その後源泉の集中管理に移行し、温泉地全体で六日町混合泉を使用しているのだろう。施設ごとの個性はなくなるだろうが、温泉資源を守るために、いたしかたないところだろうか。
大浴場は広い空間が特徴的な石風呂。無色透明の温泉が清潔感ある十和田石の湯船に満ちあふれている。それにしても浴場は「ちょっと広すぎるんでない?」と感じるほど、奥行きがある。エントランスロビーといい、この宿のウリはこの空間の広さなのだろうか(苦笑)
露天風呂は石をはめ込んだような、大浴場とは異なる趣の石風呂。目隠し越しの格子越しに、白い山々と六日町の街並みが見渡せる。空気はちょっと冷たいが、湯船の中は心地よい。西に傾く夕陽を感じながら、緩やかに流れる時間を噛みしめる。
温泉にいると時間の概念がどこかにいってしまう。あっという間に夕食の時間になってしまう。そして夕食。料理がテーブルの上いっぱいに並び、どれも彩りが鮮やか。一品一品の味はよく、宿の品格を感じさせる会席料理である。
ただ欲をいえば、もう一押し郷土色が欲しいところ。お米は南魚沼産コシヒカリだけに、この土地でしか食べられない郷土料理があれば、もっと高評価をしたに違いない。
そんなことを思いつつ食事をしている時、「失礼いたしま~す」という声がする。扉が開き、「本日は越路荘をご利用いただきましてありがとうございます。」と、女将が挨拶にやってきた。いつも秘湯が多いから、こんな感じで女将がくる宿も久しぶり。ちょっぴり懐かしい昭和の香りを感じた瞬間であった。
食後は小休憩のあと、入れ替わった風呂に向かう。大浴場と露天風呂ともにコンパクトな感じだが、湯船には御影石がふんだんに使われ、情緒はこらの方がいい。ただ湯船がコンパクトな分、湯の温度は熱く、そう長湯はできない。湯上がり処にある冷水器がかなり役に立った。
スノーボードに湯疲れ。40代の身体はもはや限界だが、布団よりもベッドの寝心地はいい。まもなく…失神するかのようにグッスリと熟睡した。そして朝、まだ空が明けきらない時間に起き出し、目覚めの一浴。これがあるから温泉宿は堪らない。結局、ヘロヘロになるまで温泉漬け。のぼせに気をつけねば…という学習効果はない。
朝食は1階朝食会場でビッフェスタイルのバイキング。サラダや漬物まで合わせると、約40種類以上の和洋中メニューが並んでいる。ここでも、もう少し郷土色は欲しいかな。郷土料理バイキングならもっと嬉しいが、案外新潟のお客さんが多いのだろうか?
といいつつ、やっていることは毎度同じことの繰り返し。負のリピート機能は正常に作動する。バイキングでも自重せねば…といつも思っているのだが、盛り付けをコントロールする学習効果はやはりない。
部屋に戻ると、急いでスノーボードの戦闘準備を整える。おっとり刀といきたが、滑りにかけてはちょっとマジ。今日はこれから石打丸山の今シーズンラストラン。今シーズンも残り僅か。悔いのない滑りをせんとあかん。
それにしても、越路荘は思った以上にレベルが高い。建物は年数が経っているが、館内は清潔感があり、まるで郷土資料館のように直江兼続関連の品々が展示されている。温泉は源泉100%掛け流しで、料理も彩り鮮やかで、丁寧な盛り付けが品の良さを感じさせる(もう少し郷土色があればもっと高評価)。
ソフト面では、女将が部屋に挨拶に来る宿も久しぶり。スタッフの接客モラルは高く、フロント、案内係、仲居、おもてなしの分業がきっちりとしている。それぞれが役割を果たしている姿がとても好印象。ハード・ソフトともに、今となっては数少ない、昭和スタイルのハイクオリティ宿といったところ。
昭和式のサービスが廃れていく宿は多いが、「昭和の宿、未だ健在!」
※残念ながら、2019年1月に自己破産。廃業してしまった…
(2019.1 更新)
住所 | 新潟県南魚沼市小栗山346 | TEL | 025-772-2420 |
URL | http://www.kosijisou.jp | IN:OUT | 15:00 : 10:00 |
宿泊料金 | 10,000円~(消費税・入湯税別) | 立寄入浴 | 1,000円 |
客室数 | 和室 36 洋室 36 和洋室 1 | 食事場所 | 夕食 部屋 / 朝食 朝食会場 |
駐車場 | あり | 送迎 | JR上越線 六日町駅より送迎あり(要予約) |
主な泉質 | ナトリウム-塩化物泉 | 温泉利用 | 源泉100%掛け流し |
浴場設備 | 大浴場・露天風呂 | 塩素消毒 | 塩素消毒なし |