温泉新選組 > 本物の温泉
温泉にも「本物」と「偽物」がある。温泉は自然の産物、いわば地球からの贈りもの。自然そのままの温泉を本物とすると、人の手によって加工された温泉は偽物と表現ができる。
しかし「ホンモノ」と「ニセモノ」どのように見分ければいいのだろうか?
ポイントは生鮮食品の考え方。野菜や魚などを見るように、温泉を生鮮食品に置き換えてみると、案外と簡単に理解できる。
生鮮食品の注意ポイントは、鮮度、産地、農薬、料金、生産者などの情報であるが、かなり温泉との共通点が多いことに気付く。
以上を踏まえ、本物の温泉を見分ける具体的なポイントを「本物温泉十箇条」として独自に設定。温泉ソムリエNobuが考える「本物の温泉」とは?
「本物の温泉」の条件として、まずは「源泉かけ流し(完全放流式)」ということを挙げたい。温泉も鮮度が命。湧き出たばかりのピュアな温泉が「本物の温泉」であることに疑う余地はない。
そうはいっても、「源泉かけ流し」というのはかなり贅沢なこと。温泉は限りある地下資源。湧出地域にばらつきがり、需要と供給のバランスがとれていない。つまり、使用量に対して温泉の湧出量が絶対的に足りないのだ。
団体旅行が主流であった高度経済成長期、多くの温泉宿は「大手旅行代理店」の要望を満たすために、施設規模の拡大に心血を注いだ。
少量の温泉でも大浴場や露天風呂が造れ、さらに、お湯の入れ換えなしに汚れ(異物)を除去できる循環濾過装置は、時間と人件費節約も兼ねた「希望の光」に見えたことだろう。
さらに現代でも、温泉を出しっぱなしで利用することに「もったいない」という考えもあり、温泉の再利用は資源節約という理由付けもある。
ここに循環温泉が爆発的に普及した背景がある。
ここで、循環工程をみてみると…
上記サイクルで再利用するなら、確かに「エコ」といえるだろう。
しかし、その循環サイクルに落とし穴があるのだ。
つまり、濾過装置で異物は取れるが、使い回した温泉には他人の皮脂がたっぷり。さらに厚生労働省で定めた法令では、温泉の換水は週に一回以上であればOK。確かに頻繁に換水できないプールではあることだが、これは温泉(お風呂)の話である。
エコであるが、他人の皮脂がたっぷり残り、一週間もお湯を替えない温泉(お風呂)。これははたして「温泉」と呼べるものなのだろうか?
極端な話、大量の水で薄めた純度○○%の水割温泉を加熱し、塩素系薬剤を大量にブチ込んで一週間熟成させた「循環温泉」は、きっと存在する。
それは何故だろうか?
これらを規制する法律・法令が存在しない。だからちょっとしか温泉が湧き出ない場所(とくに都市部)でも温泉施設がどんどんできる。それらは遵法精神にのっとり、粛々と善処している模範的施設なのである。
こんな温泉の痕跡すらも見つけることができない「薬剤脂入り水割り加熱温泉」にお金は払いたくない。ウチの風呂で十分だ。
ちょっとヒートアップしたが、これが「循環温泉」の本質。「源泉かけ流し」温泉を求めることは、温泉の原点回帰に他ならない。「原点」だからこそ「本物」といえるのだ。
循環温泉(風呂)では、殺菌をしないとレジオネラ菌や大腸菌などの雑菌が繁殖する危険性がある。
循環水の殺菌は必要不可欠。薬剤、紫外線、銀イオンなどの殺菌方法があるが、安価で利便性が高く、最もポピュラーな方法が「塩素系薬剤」を添加すること。
安価で利便性が高い薬剤使用。農産物における農薬と同じ構図なのだが、塩素は活性酸素を発生させ、細胞を破壊、老化を促進させる有害物質である。
人体に有害な物質を含む「塩素温泉」は「本物の温泉」とは呼べない。極力避けたい、いや避けるべき。
明らかな塩素臭があれば判断できるが、臭いを感じない場合、どうしたら塩素温泉だと判断できるだろうか?
下記のポイントをチェックしたい。
まずは湯口から注がれる温泉の量と臭い、次に浴槽からのオーバーフロー(循環濾過装置使用温泉は基本的にオーバーフローしない)、そして排水経路の確認を行う。
塩素臭の有無を調べるのは分かるが、どうしてオーバーフローや排水チェックをするのかというと、これにより「源泉かけ流し」であるかを判断できるからである。
ただ「源泉かけ流し=塩素なし」ではない。循環風呂では必然とされる塩素の使用確率が低下するということ。残念ながら、源泉かけ流しでも条令により塩素使用を義務づける自治体があるのだ。
もし不幸にして塩素温泉に当たってしまったら…
もったいない気持ちを抑え、塩素を洗い流したほうがよい。
温泉は火山活動と密接な関係がある。地下のマグマによって熱せられた地下水に高温高圧下で様々な成分が溶け込み、岩盤の隙間などから温泉が湧出する。
また、そのような熱い地下水が溜まる地層が河川(海・湖も同様)などに削られ、温泉が湧出する。
上記のように、火山と河川の近くにある温泉は個性的な温泉が多く、「本物の温泉」に出会える確率が高いのである。
温泉の発見年代が古いほど「本物の温泉」が多い。それは温泉の掘削技術が時代とともに進歩してきたから。つまり歴史ある温泉は、もともと自然に湧出した温泉なのである。
今日では、1000mを越える深深度まで温泉を掘削できるようになり、温泉空白地であった平野部や都市部でも温泉が湧出するようになった。
温泉は火山ガスに熱せられたり、岩盤の隙間などを通ったりして、様々な成分が溶け込むことで個性が生まれる。
だが、それらの過程を経ない深深度掘削温泉は濃度が薄かったり、自噴しないなど、温泉そのもののパワーが弱いことが多い。
湧出経路、いわば経験の差。温泉も味のあるオヤジがいいってこと。
山あいにある渓谷や河川は交通の便が悪く、僻地である事が多い。そのような場所にある温泉、いわゆる秘湯は大規模開発から逃れ、昔の環境が維持されているケースが多い。
つまり「本物の温泉」がある条件を満たしている。しかも、一軒宿のためその温泉を独占している。「本物の温泉」にとって、これ以上の好条件はない。
昔から共同浴場は温泉の湯元(大湯・総湯などの名称)であることが多く、湧出量が豊富な温泉には複数の共同浴場(外湯)も造られた。共同浴場を中心に温泉宿や店舗が建ち並び、温泉街を形成してきた。
元来、共同浴場は地域住民や湯治のための施設であり、素朴な「本物の温泉」に出会う確率が高いといえる。
平成の初め、「ふるさと創生一億円事業」で多くの自治体が温泉掘削を行った。その結果、全国に無数の日帰り温泉が誕生。以降、手軽に温泉を楽しめる日帰り温泉は官民問わず、増え続けている。
それらの施設は湯量不足、人件費削減や浴場メンテナンスの効率化などの理由のため、循環濾過装置を導入するケースが多く見られる。
そのような施設の浴場にはかなりの塩素臭が充満。湯口から出る温泉からも塩素臭が感じられ、当然飲泉は禁止。何よりも肌がスベスベどころかカサカサになってしまう。
そのような傾向は、公共の温泉施設に多く見られる。何かあってはならないということなのだろうが、いささか上意下達の感が否めない。
広い駐車場を備え、食事処やリラクゼーションなど、風呂以外の設備も充実するだけに人気は高いが、温泉の利用方法には注意が必要である。
人気の高い大型施設は消費者ニーズに合わせ、浴場の大型化、露天風呂・貸切風呂の増設をしてきた。
温泉の湧出量が豊富であれば問題ないが、大きな浴場を満たす湯量がない場合は循環濾過装置を導入せざるを得ない。そうなると、ほぼもれなく塩素がついてくる。
さらに加水率についても問題がある。コップ一杯、スポイト一滴の温泉にいくら加水しても、温泉法では温泉。なんら違法はない。
あまりにも大きな施設には疑う目を持つことも必要かもしれない。
例えば、鄙びた共同浴場の入浴料は驚くほど安い(無料~300円ほど)。それは温泉を加工せず、地域住民や利用者に提供しているケースが多いからである。
逆に利用料金が高いということは、施設の運営と温泉を入浴可能な状態にするためにコストがかかっていることを意味している。
温泉施設はメンテナンスや維持費だけでも莫大なコストが発生する。さらに循環濾過装置には導入時のイニシャルコスト(初期費用)、運営時のランニングコスト(維持費)もかかる。
その費用が料金に転嫁されるため料金が高いといえる。高い施設は「加工温泉」の可能性が大。注意した方がいい。
温泉に真摯に向き合い、利用者のことを考える施設ほど、温泉の情報開示をきちんと行っている。さらに、温泉偽装問題などを考えると、自分で温泉情報をチェックすることが重要になってきている。
「温泉分析書」のチェックポイントは
簡潔に述べると温泉分析書は温泉の履歴書。温泉法により情報開示が義務化されているので、チェックを心がけたい。
ちなみに浴槽での温泉水の状態を確認するためのORP(酸化還元電位)測定の検査結果も信頼できる情報源である。掲示があれば優良な温泉施設であるといえる。