大出館は奥塩原元湯温泉にある「日本秘湯を守る会」会員の温泉宿。湯治色を色濃く残し、高品質で驚きの硫黄泉をリーズナブルに堪能できることが最大の魅力。温泉街から離れた山の中にある宿らしく、静かな環境が保たれている。
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元湯温泉に行くのは実に7年ぶり。忘れかけていた湯の感触を確かめる嬉しさが込み上げてくる。スノーボードを楽しんだハンターマウンテンから新湯温泉を抜け、元湯へと向かう。
車は雪道仕様なので、雪道を苦にすることはないが…冬の元湯温泉をちょっとナメていた。国道に戻り、元湯に続く細道を見たら、かつての記憶が蘇ってきた。
そう、元湯へのアクセスはクネクネ山道を登らなきゃならない。塩原と名がつくが、奥がつくだけにかなり山奥。新湯ほど道が整備されていない。たまに対向車があったりすると通れないことはないが、ちょっとやっかいなのだ。
秘湯だからしょうがない…秘湯好きだからしょうがない。そう自分に言い聞かせ、山道をひた走った先に三叉路にぶち当たった。左は元泉館とゑびす屋、右は大出館の標識。今日の宿は大出館、つまり右ということだ。右に曲がり、細い道を進むと狭いヘアピンカーブが見えてきた。
こ、これか? 一抹の不安を覚えながらも坂を下ると…右に狭い駐車場はあるが、案の定どん突き。先に駐車する車があり、どうも宿前までは車は行けないようだ。
残念ながら反転しかないが、反転するスペースもなく、坂道バックで車入れ。こうなるとマニュアル車はちょっと面倒くさい。まぁ、これも好きで乗っているからしょうがないけどねっ
建物は丈夫で実用的なRC造(鉄筋コンクリート造)のようだが、館内も実用的で過度な装飾がない。観光旅館の雰囲気とは違う極めて実用的な湯治宿そのもの。しかし実用的ということは、温泉は期待できるという裏返しでもある。その証拠にロビーに入った瞬間から硫黄のニオイがプンプンするぢゃないかっ。
建物は三階建てだが、斜面に建っているためエントランスは三階。客室は一階と二階、浴場は一階にある。館内施設はエントランスロビーに小さな売店がある程度で、他の設備はない。
湯治宿らしく、ある意味簡素で実用的な印象を受けるが、温泉宿には部屋と風呂の他に食事場所さえあればいいのだから、余分なものを省けばこうなる。まさに「フロ・メシ・寝る」、古き日本男児というとことか?
チェックインを済ますと、エレベーターで一階下の部屋へとご案内。部屋は8帖の和室。湯治宿らしく飾り気はないが、掃除は行き届いているようだ。まあ、浴場にいる時間が長いだろうから、部屋に関してはあまり執着していない。荷物を置き、ウェアを脱ぐと、そそくさと浴衣に着替えて風呂場へ向かう。
風呂は混浴の内風呂と露天風呂、そして女性専用の内風呂と露天風呂があり、ともに塩素消毒のない源泉100%かけ流し。油臭の混じった硫黄臭がプンプンとするイオラー(硫黄泉好き)にとって堪らない温泉である。たまたま空いていたのを幸いに、最初は貸切風呂(藤の湯)でゆっくり硫黄泉を堪能する。独り占め温泉は実に気持ちがいい。いや気分がいい。
ウグイス色の湯船に満たされる温泉の湯温は適温。湯口からはこんこんと源泉が注がれている。試しに飲んでみると、激えぐっ…強烈な個性的な味がする。硫黄分も多いので多くは飲まない方が無難そうだ。
脱衣所が新しく最近改装したようだが、浴場の壁板は変色したり、湯口をみると、温泉の硫黄分がこびりついている。温泉パワーの力強さを感じる。
存分に独り占めした後は混浴内風呂(平家かくれの湯・御所の湯)へ移動する。天井が貸切風呂(藤の湯)と繋がっているためか、こちらも硫黄臭プンプン。しかも、まだ利用者も少なくほぼ貸切状態。聞こえる音といえば湯口から流れる温泉の音のみ。こりゃたまらん。
よし、次は露天風呂。扉を開けてみると、階段下にウグイス色の湯を湛えた露天風呂(岩の湯)が見える。しかし寒い上に、石の階段がちょっと急だったりする。こりゃ転んだら大惨事だな…寒さをガマンしながらゆっくりと下り、湯船に足を入れる。
入れるまではよかったが、「なんということでしょう!」ビフォー&アフターではないが、なんという熱さ。体は寒いのに、足が飛び上るほど熱い。うげ~、まっじっすかぁ!
水でうめたいが、でもできるならうめたくない。徐々に温度を慣らして、そろりそろりと肩まで浸かるが、足の方がドロドロとしている。どうやら温泉成分が沈殿しているようだ。好き嫌いがあると思うが、こういうのはちょっと苦手。こう見えて、以外と潔癖なところがあるのだ。熱さガマンも限界になり、ほんの数十秒ほどで撤収。
御所の湯で調整(?)した後は墨の湯(鹿の湯・墨の湯)に向かう。一見すると、温泉による浸食でタイルの壁は剥がれ落ち、ここの浴場が一番傷んでいる。若干面食らうところもあったが、墨色の墨の湯に入ってみる。
するとどうだろう! 温度は適温で快適。硫黄臭も他に比べ弱く、飲泉をしたところエグさもない。かなり意外な印象を受ける。鹿の湯は他の風呂と同じ感触(とはいっても熱いが)だが、まったく違う湯の感触なのだ。一発で気に入ってしまった。
硫黄三昧のあとは夕食。朝夕ともに部屋出しなのは嬉しい。献立は地産地消、素朴な山の幸中心の田舎風会席膳である。すべて山の幸とはいかず、お造りはあるが、そこは温泉宿の定番といえば定番。山の中ではあるが、意外と鮮度もいい。
料理の説明やお品書きがなかったのは残念だが、手作り感があり、なかなか美味い。この料金でこれだけの料理が出るとは、正直思わなかった。嬉しい誤算である。
食後の小休憩の後は、やはり温泉。テレビも見ずに、御所の湯と墨の湯をはしご湯三昧。強烈な硫黄パワーにひるむことなくゴロ寝休憩を挟んで入り続ける。気がつくともう0時過ぎ。いい温泉があれば余分なものはいらないんだなぁ。
朝になったが、いつもと違って7時まで少しゆっくり寝る。さすがに湯疲れしたようだ。硫黄泉のパワーは凄い。それでも御所の湯と墨の湯に最後のお別れ入浴をして、部屋に戻ると8時に朝食が運ばれてきた。
朝食は塩鮭に温泉玉子、きんぴらごぼうに菜の花しらす和えなど温泉宿らしい素朴な献立である。味はちょい濃いめ。御飯に合わせて濃いめなのだろう。お櫃にはぎっしりお茶碗四杯分ものお米が詰まっていた…。
チェックアウト後に嬉しいサプライズがあった。ロビーにある温泉分析表を見ていたら、ご厚意で源泉を見せてくれるというのだ。一階まで移動して、浴場近くにある出口から外にでると、無造作にというか自然に源泉がある。この源泉が五色の湯No.3源泉(墨の湯に使用)。
さらに貯湯槽があり、そこには御所の湯源泉(五色の湯に使用)があった。御所の湯源泉は実際には混合源泉で、複数から湧出する源泉を貯湯槽にまとめた源泉ということらしい。建物の周囲を掘ると自然と湧き出すとのこと。
ということは、両方の源泉とも湧出場所から湯船までほんの数メートルということになる。この鮮度は素晴らしい。温泉パワーの凄さの源をみた思いがした。
大出館は単に温泉宿というよりも、湯治宿の料理グレードアップ版と表現した方がしっくりくる。建物や設備は料金相応かもしれないが、温泉と料理は料金以上の価値がある。特に温泉のもつパワーは凄い。イオラー(硫黄泉マニア)にとって堪らない宿といえる。
(2015.6 更新)
住所 | 栃木県那須塩原市湯本塩原102 | TEL | 0287-32-2438 |
URL | http://www.ooidekan.com | IN:OUT | 13:00 : 10:00 |
宿泊料金 | 8,550円~ [2名利用 1泊2食付] | 立寄入浴 | 10:00~16:00 [600円] |
客室数 | 和室 26 | 食事場所 | 朝夕ともに部屋出し |
駐車場 | あり | 定休日 | - |
主な泉質 | 含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 (硫化水素型) | 温泉利用 | 源泉100%かけ流し |
浴場設備 | 混浴内風呂×2・女性専用内風呂・露天風呂・貸切風呂 | 塩素消毒 | 塩素消毒なし |