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(2013)
法師温泉長寿館は群馬・新潟の県境にある秘湯の一軒宿。温泉宿が温泉宿であるために何が大切なのだろうかと、温泉宿の原点を考えさせてくれる宿である。
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建物を外から見るだけでもノスタルジックな雰囲気に否応なく期待感が高まる。玄関に入った瞬間から全身で感じる異空間。それは日本人が遙か昔に忘れてしまったもの、いや置き去りにしてしまった大切なもの。
それは「古き佳き日本の情景」
それにしても、自分の家ではないのに湧き上がるこの安心感は何なんだろうか。明治、大正、昭和、平成と、時を重ねたものしか持ち得ないオーラが身体全体を優しく包んでくれる。
玄関のある本館は明治8年、法師川沿いに建つ別館は昭和15年、そして和洋折衷の鹿鳴館様式で建てられた大浴場「法師乃湯」は明治28年に建築され、国登録有形文化財に登録されている。細かな部分は状態に応じて修繕しているが、外観及び内部の柱・梁などが往時をしのばせる。
私にとって一番の憧れであった長寿館に初めて訪れたのは2005年の初夏。二度目は2008年の初秋。そして三度目の今回(2013年春)は、実に五年ぶりの訪問。だから予約が取れた時からとても幸せな気持ちに包まれていた。
この日は朝からかぐらスキー場でスノーボードを楽しんでいたが、今宵の宿が長寿館だと思うと、悠長に滑っている場合ではない。宿に三時頃までには着けるようにとスキー場を撤収し、三国峠を一路、長寿館に向かっていた。
スキー場には雪はあるが、道路の雪はすっかり溶け、柔らかな春の日差しがそそいでいる1注いでいる。はあるが、まだ新芽は吹いていない様子。景色は春はあと少しという感じであるが、空気は春の匂いを運んでいた。
駐車場に車を停め、宿の方に歩いていくと、前に先客がいる。西洋人の家族のようだが、どうやら日本語は堪能のようで、いかにも外国人の話す日本語が聞こえてくる。それにしても日本の原風景のような宿を利用してもらうのは嬉しい。古き佳き日本を満喫して欲しいと心底思った。
帳場で喜びを抑えつつチェックイン。カギを受け取り部屋に向かうが、廊下や階段を歩くたびに「ミシミシ」やら「ギィー」やら木の軋む音がする。これがイイ。実にたまらんのである。無機質なコンクリートに比べなんと自然なことだろうか。こんな些細なことが嬉しくなる。
今回の部屋は「本館」の十七番。なんと昭和4年に画家の竹久夢二が利用した部屋であるとのこと。部屋にはその旨を記した額が掲げられている。竹久夢二とは美人画が有名な大正浪漫を代表する画家・詩人。いろんな温泉宿で彼の作品を目にすることがあったが、まさか宿泊した部屋に泊まれるとは思いもしなかった。これも長寿館の素晴らしさのひとつだろう。
炬燵で寛ぐと、法師川の川音が聞こえてくる。流れる非日常の時間。このレトロでノスタルジーあふれる空間で時間をゆっくりと噛みしめる。これぞ大人の休日。休日はこうでなければいけない。
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とはいうものの、究極の足元湧出温泉が待っている。長寿館にきて、温泉に入らないのはまさに愚の骨頂。浴衣に着替え、まずは法師乃湯に向かう。
法師乃湯は浴槽の直下2mから「ポコポコ」と温泉が湧き出す究極の足元湧出泉。温泉は劣化することなく湯船を満たし、入浴者はその珠玉の温泉に直接触れることができる。
湧出温度は43℃ぐらい。場所により多少温度は違うが、実際に感じる温度は38~39℃ほど。熱すぎず温(ぬる)すぎず…ちょうどよい温度で湧き出すとは、まさに奇跡としか思えない。「ポコポコ」と大きな石の下から温泉が湧き出す場所に身体を移し、夕食の時間ギリギリまで恍惚の時間を過ごした。
夕食は食事処「法師の間」で用意がされていた。どうやら利用する部屋のグレードに応じて食事場所が変わるようだ(前回は部屋出し)。まっ長寿館に泊まれるなら、部屋出しでも食事処でもどちらでもいいという感じ。私にとって大勢に影響はない。
料理は山菜や川魚など、山の幸を中心に盛り込んだ会席料理である。海の幸に比べ派手さはないが、山の宿らしい献立が嬉しい。長寿館のご先祖様が新潟県南魚沼出身ということで、契約農家から仕入れた魚沼産コシヒカリを使用している。
群馬県産のお米も美味いが、やはりお米は新潟産のほうが美味い(と感じてしまう)。残すことなく、すべての献立を胃の腑に収めた。
食事が終わり、部屋で小休止したあとは「玉城乃湯」に向かう。男女入替制だが、20時以降は男性タイム。「法師乃湯」もいいが「玉城乃湯」も違う情緒がある。新しく清潔感あふれる内風呂は、圧倒的な檜の梁の存在感と檜の香りが素晴らしい。外には野天風呂があり、スポットライトが風呂を囲む巨石を映し出している。
この「玉城乃湯」は日帰り利用では入浴できない。利用するためには宿泊しなくてはならず、まさに宿泊者だけの特権といえる。
存分に「玉城乃湯」を楽しんだ後は、また「法師乃湯」に向かう。夜も更けてきたせいか、人影はまばら。ほのかな行灯の灯りが幽玄の世界を創り出していた。もはや言葉はいなない。いや言葉を発してはいけない。
耳を澄ませば、湯口が注がれる静かな音と、「ポコポコ、キュルキュル、プコ」と、まるでシャボン玉のようにゆらぐ気泡と一緒に湧き上がる温泉の音だけが聞こえてくる。厳かな雰囲気の中で静かに時間が流れていく…。
次の日の朝、五時過ぎに起きだし、「玉城乃湯」と「法師乃湯」をはしご湯。こんな贅沢はない。これ以上の贅沢があるなら出てこいや! PRIDEの高田節が頭の中をよぎる。(懐かしいわw)
「玉城乃湯」と「法師乃湯」、両者共に大変素晴らしい風呂であるが、どちらを選ぶとしたら、私は「法師乃湯」に軍配を上げるだろう。何故ならば明治の香り漂うノスタルジックな空間。その空間が醸し出す情緒が堪らないからである。
一泊だけでは本当に勿体ない。「まだ帰りたくない…」、毎度のことだが、朝風呂に入りながら何度も心の中でつぶやく。
長い朝風呂の後、昨晩と同じ食事処「法師の間」で朝食をいただく。オーソドックスではあるが、山の宿らしい優しい献立がとても嬉しい。チェックアウト前に最後の未練湯といきたいが、今回のメインはスノーボード。
また来年…後ろ髪引かれる思いで宿を後にした。
(2015.8 更新)
住所 | 群馬県利根郡みなかみ町永井650 | TEL | 0278-66-0005 |
URL | http://www.hoshi-onsen.com/ | IN:OUT | 15:00 : 10:30 |
宿泊料金 | 14,850円~ [2名利用 1泊2食付] | 立寄入浴 | 10:30~13:30 [1,000円] |
客室数 | 和室 37 | 食事場所 | 食事処・部屋出し・広間(4名以上) |
駐車場 | あり | 送迎 | - |
主な泉質 | カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉 | 温泉利用 | 源泉100%かけ流し(法師乃湯・長寿乃湯) かけ流し循環併用(玉城乃湯) |
浴場設備 | 大浴場・内風呂・露天風呂 | 塩素消毒 | 塩素消毒なし |