法師温泉長寿館は群馬・新潟県境の三国峠に佇む秘湯の宿。峠越えの旅人をはじめ、川端康成や与謝野晶子などの歌人・文人も逗留。多くの旅行ガイドやテレビ・メディアに登場する。最近では映画「テルマエロマエ」のロケ地としても注目を浴びた。
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法師温泉長寿館といえば、五十代以上の方は旧国鉄フルムーンCMでの上原謙と高峰三枝子の混浴シーンを思い出すことも多いのではないだろうか。(ちなみに館内には当時のフルムーンポスターが飾られている)温泉好きなならば、一度は利用してみたい宿として人気高い。
玄関のある本館は明治8年、法師川沿いに建つ別館は昭和15年、そして和洋折衷の鹿鳴館様式で建てられた大浴場「法師乃湯」は明治28年に建築され、それぞれ国登録有形文化財に登録されている。明治・大正・昭和・平成と時代を経たノスタルジックな情景を色濃く残す。
館内は積み重ねた歴史を感じさせるレトロ空間。時間を超えたものだけが纏う「ノスタルジー」を漂わせる。建物は帳場や浴場がある本館(明治八年築)を始め、別館(昭和十五年築)、法隆殿、薫山荘があり、それぞれに客室がある。
玄関広間には樹齢1300年以上のトチノキを使った巨大な火鉢や柱時計があり、上を見上げれば神棚がある。天井から吊るされるランプは、かつて長寿館がランプの宿であった名残。電気という文明の光が通る前まで、館内を優しく包んでいたのであろう。そんな想像が頭を駆けめぐる。
飴色を纏った木の光沢に、囲炉裏の天井にびっしりとこびり付いたスス。それらは、いわば歴史の生き証人。「ミシミシ」「ギィー」と、廊下や階段を歩くたびに響く木の軋み音。これが実にたまらない。古き木造建築なればこそ発する音。小さい頃の思い出をふと思い出す(昭和生まれ限定か?)。いつまでもこの響きが残って欲しいと願うばかり。
秘湯の宿らしく、娯楽設備はなが、それでいいのだと思う。この宿に娯楽設備は似合わない。ノスタルジックな空間と静かに流れゆく時間。そして極上の温泉があるのだから。
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近いうちに絶対訪れよう。そう決めてから一ヶ月。約束(?)通りにスノーボードの滑り納めを兼ねて法師温泉長寿館を訪れた。この宿を訪れるのは五回目。初めて訪れてから足かけ九年にもなるが、いつ訪れてもこころが踊る。
前回3月の立ち寄り時は、残雪があり、いまだ冬…という印象だったが、4月ともなれば柔らかな春の日が差すポカポカ陽気。まだ新芽は吹いていないが、確実に空気は春の匂いを運んでいた。
少しでも長く長寿館で過ごしたい。チェックインは15時からだが、30分前にはノスタルジックな世界に足を踏み入れていた。はやる気持ちを抑えながら建物を写真撮り。まるでテーマパークの開場待ちのような心境だ。
帳場でチェックインを済ませ、部屋までの行きすがら案内係が館内の説明をしてくれるが、僕はニコニコしながら馬耳東風(なんて失礼なっ)。館内に漂う古い木造家屋の匂いやら、廊下を歩くたびに響く木の軋み音を愉しんでいた。
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今回利用する別館は本館とは法師川を挟んだ対岸に建つ客室棟。別世界の雰囲気がある本館に比べ、昭和初期の建物はどことなく懐かしく、身近な雰囲気が感じられる。まるで記憶の中にある光景…昔の実家を思い出す。
感傷に浸りつつ案内された部屋は五号室。8帖の本間に4帖の次の間のあるゆったりとした和室に炬燵が置かれている。耳をすませば法師川の川音が聞こえ、炬燵でいただくお茶は格別。いいねぇ…このまったり感。
広縁から窓の外を見ると、川を挟んで本館と各浴場が見渡せ、まるで長寿館を中から一望しているかのようだ。
おもむろに壁に掛かる額縁をみて驚いた。この部屋はなんと昭和37年に俳優の三國連太郎、いわゆる「スーさん」が利用した部屋であるという。まさか名俳優が宿泊した部屋を利用できるとは…長寿館は奥が深い。
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少しの時間、部屋の情緒を満喫すると浴衣に着替え、まずは「法師乃湯」に向かう。長寿館の代名詞的存在の法師乃湯は、浴槽直下2mから温泉が湧き出す足元湧出泉。ポコポコと気泡をたて湧き出る温泉は、神々しいばかりに無色透明。生まれたて珠玉の温泉を愉しめる浴場は、全国的にもとても貴重な存在。これこそ温泉の原点であり、究極の温泉といえよう。
ゆっくりと長湯したいので、湯口から源泉が注がない奥の湯船に入る。湯船の温度は41℃前後だろうか。大きな座石に腰を降ろすと石の下からポコポコと気泡湧き上がる。熱すぎず温(ぬる)すぎず…まさに奇跡としか思えない。夕食の時間ギリギリまで恍惚の半落ち状態で温泉の感触を愉しむ。
夕食は部屋出し。昨年は本館利用だったので食事処だったが、別館は部屋で炬燵に入りながらゆっくりいただける。食事処も悪くはないが、やはり温泉宿の食事は部屋出しが嬉しい。
料理は山菜や川魚など、山の幸を中心に盛り込んだ会席料理。たしかに海の幸に比べ派手さはない。その点は海に近い宿には敵わない。でも奥深さという点では山の幸に軍配が上がる(と思っている)。
上州麦豚鍋をメインとした流れるよう会席料理を味わい、腹固めで契約農家から仕入れた魚沼産コシヒカリでシメ。食べきれないご飯は夜食用のおにぎりにしてもらい、しばし休憩。
休憩後は「玉城乃湯」に取り舵いっぱい。男女入替制なので男性時間は20時以降になるが、ほのかな幽玄世界での湯浴みは至高の極み。圧倒的な檜の存在感と香りが実に素晴らしい。巨石を配した野天風呂もいいが、やはり内風呂がいい。日帰りでは利用できない宿泊者だけの特権を存分に堪能した。
「玉城乃湯」を堪能した後は「法師乃湯」に向かう。夜も更け浴場は人影はまばら。ほのかに灯る行灯が「玉城乃湯」以上の幽玄世界を映しだす。
もはや言葉はいらない。いや言葉を発してはいけない。耳を澄ませば、「ポコポコ、キュルキュル、プコ」と、まるでシャボン玉のようにゆらぐ気泡と一緒に湧き上がる温泉の音が聞こえる。流れゆく至福の時間。
嗚呼!このまま時が止まってくれ…
温泉宿に泊まると苦手な早起きができる(寝る間があったら風呂は入れ!っちゅうことやね)。朝五時過ぎには「玉城乃湯」と「法師乃湯」をはしご湯。こんな贅沢なことはない。これ以上の贅沢があるなら出てこいや! (去年と同じやんけ!)
長い朝風呂が終わり、部屋に戻ると、すでに朝食の準備途中。ふぅ~ギリギリセーフだ。献立は昨年とほぼ同じ。オーソドックスではあるが、バランスのとれた朝飯。これが嬉しいんだよね。
朝食後はチェックアウト前最後の未練湯。昨年できなかったことを今年はリベンジ。この行動は温泉好き、いわゆる湯ヲタじゃないと理解できないだろう!
そして部屋に戻り、額の前で黙祷。ありがとう スーさん。あなたの釣りへの情熱はボクが引き継ぎます!
気合い充実、体力満タン。かぐらスキー場までほんの数十分。さて、2013-14シーズンのラストラン、シュプールがオイラを待っている!
ん? スノーボードもシュプールでいいのか? 調べてみたら、トラックというのが正確らしい… なんや、ややこしいっ
(2015.8 更新)
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この宿泊から4年後…ようやく日帰りで訪れる機会を得る。3月初旬にしては珍しい「雨」のためゲレンデを断念。かつての上杉謙信(いい響きだ!)よろしく、越後湯沢から三国峠を下り、法師温泉にやってきた。
駐車場から緩やかな坂を登っていくと、徐々に長寿館が見えてくる。レトロで変わらぬ佇まい。文化財の建物が、たった4年で変わる訳もないが、初めて訪れてから15年あまり。変わらぬこの光景に心から癒される。
傘をさすほどの雨が降っているが、立ち寄り入浴が始まる前に、すでに小さな行列ができている。さすがに人気宿は格が違う(苦笑)
日帰りでは内風呂の法師乃湯(混浴)と長寿乃湯(女性専用)が利用できるが、露天風呂は不可。ちょっと残念ではあるが、おそらく清掃のため。あくまで主賓は宿泊者。
この日は何組かのご夫婦が一緒に湯浴みを楽しんでいたが、この光景も長寿館の伝統。国鉄フルムーンポスターの世界が今でも綿々と受け継がれているのだ。
一時間強ほど湯船でまったり時間を過ごし、ストレスの放電とヤル気の充電。いい湯はいつきてもいい湯。温泉は最高の充電器だ(自称 ゆるゆる温泉ソムリエ談)
(2018.5 更新)
住所 | 群馬県利根郡みなかみ町永井650 | TEL | 0278-66-0005 |
URL | http://www.hoshi-onsen.com/ | IN:OUT | 15:00 : 10:30 |
宿泊料金 | 14,850円~ [2名利用 1泊2食付] | 立寄入浴 | 10:30~13:30 [1,000円] |
客室数 | 和室 37 | 食事場所 | 食事処・部屋出し・広間(4名以上) |
駐車場 | あり | 送迎 | - |
主な泉質 | カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉 | 温泉利用 | 源泉100%かけ流し(法師乃湯・長寿乃湯) かけ流し循環併用(玉城乃湯) |
浴場設備 | 大浴場・内風呂・露天風呂 | 塩素消毒 | 塩素消毒なし |